概要
シグナス超バブル(CSB)は、局部腕方向に位置する約13度の広がりを持つ軟X線放射の重要な領域である。この大規模構造は、近接する星形成領域からの恒星風と超新星爆発の累積的効果、あるいは単一の破滅的現象であるハイパーノヴァのいずれかに起因する可能性がある。HaloSatの観測能力を活用し、CSB領域内の重複しない4つの10度径視野を0.4-7 keVエネルギー帯で観測した。分析の結果、全ての視野で吸収量と温度が一貫しており、加重平均はそれぞれ6.1×10²¹ cm⁻²、0.190 keVであった。これらの均一な特性は、CSBが単一事象に由来する統一体であることを示唆する。殻状物理モデルに基づき、CSBの総熱エネルギーは4×10⁵² ergと推定された。シグナスOBアソシエーションへの吸収量と距離推定を検証した結果、CSBの吸収量はCyg OB1の値に最も近く、CSBは同様の距離1.1-1.4 kpcに位置することが示された。
1. 序論
シグナス超バブル(CSB)は、1980年にHEAO 1衛星による観測で初めて同定され、はくちょう座の銀河面近くに広がる軟X線構造として発見された。この発見により、同一領域で観測されていた赤外線、光学、電波構造が相互に関連付けられ、総称してCSBと呼ばれるようになった。Cash et al. (1980)による初期測定では、X線放射は天空上13度に広がり、吸収量測定から推定された距離2 kpcにおいて物理的直径約450 pcに相当することが示された。CSBの馬蹄形の外観は、主に中間にあるシグナスリフト(別名:北の炭袋、またはシグナスの大裂け目)と呼ばれる大量の塵雲がバブルの中心領域を遮蔽することによる見かけ上の効果である。
CSBを取り囲むように9つのOBアソシエーションが存在し、中でも著名なシグナスOB2アソシエーションを含む。シグナスOB2は100個以上のO型星を有し、我々の銀河で検出された中で最大のO型星集中領域かつ最も大質量の若い星のアソシエーションとして特筆される(Knödlseder, 2000)。CSBへの視線は局部腕方向と一致するため、複数の天体が重畳して見える。この配置のため、観測される構造が個別の実体なのか、複数の重なった天体の合成なのかを判断することが複雑化している。バブル内の様々な領域に対する矛盾する距離測定値が、CSBの正確な性質の理解をさらに困難にしている。
距離研究は多くの場合、水素柱密度(N_H)でパラメータ化される吸収量測定に依存する。より遠方では、途中の銀河系内物質による吸収が一般的に増加する。CSBについては、矛盾するN_H測定値が、複合構造説と単一構造説の両方を支持してきた。Uyaniker et al. (2001)は、CSBの異なる領域でN_H値が変化することを報告し、腕に沿った視線方向に依存する複合的な性質を示唆した。一方、Kimura et al. (2013)はCSB全体で一貫したN_H値を発見し、統一構造としての解釈を支持した。
仮にCSBが真に統一構造である場合、その巨大なサイズを説明することは困難を伴う。Cash et al. (1980)は、距離2 kpcにおけるCSBの総熱エネルギーが6×10⁵¹ ergを超えると推定し、単一事象ではなく30-100回の超新星爆発の連鎖に起因する起源を支持した。しかし、単一事象起源を仮定する場合は、ハイパーノヴァ(Paczyński, 1998)として知られる異常に強力な超新星が必要となる。ハイパーノヴァの観測的証拠は存在し、例えばSN1998bwは初期運動エネルギーが2-5×10⁵² erg(通常の超新星の1桁大きい)を示し、約40太陽質量の前駆星に由来した可能性がある(Iwamoto et al., 1998)。このエネルギー範囲はCSBで観測された値に匹敵し、ハイパーノヴァ起源の可能性を提起する。あるいは、CSBは近傍のOBアソシエーションにおける大質量星からの複数の超新星爆発と恒星風の組み合わせによって生じた可能性もある。
2. 観測と方法論
本研究では、軟X線背景のマッピング及び広がりX線源の研究を目的として設計されたCubeSatベースのX線望遠鏡、HaloSatからのデータを採用する。HaloSatはCSB領域内の重複しない4つの視野(各直径10度)を0.4-7 keVエネルギー帯で観測した。これらの観測は、CSBのX線放射、吸収、温度の空間的一様性を特徴付けることを目的とした。
データ処理は、高バックグラウンド期間のフィルタリング、機器効果の補正、バックグラウンド成分の差し引きを含む、X線天文学における標準的な手順を経て行われた。スペクトル解析はXSPECを用いて実施され、前景及び背景成分を考慮したモデルが適用された。主な焦点は、CSBのプラズマ放射の水素柱密度(N_H)と温度(kT)の測定に置かれた。
CSBの総熱エネルギーを推定するため、角サイズと距離推定から導出された半径を持つ球状構造を仮定した殻状物理モデルを採用した。エネルギー計算は、観測されたX線光度をバブルの体積にわたって積分し、プラズマ